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『名もなき毒』宮部みゆき
名もなき毒

幻冬舎 2006
[セレブますおさんがゆく]星星星星

久々に、時代物でもなくファンタジーものでもない宮部さんの小説は、奇しくも京極と同じく「毒」がテーマ。それも同様に「青酸性の毒物」というのは偶然が否か…。
2003年に実業之日本社から出た『誰か』のシリーズが今回は何故か幻冬舎から出たのもちょっと不思議。『誰か』は手元にあるので読んでいるはずですが、例によって記憶喪失です。
さて、今シリーズの主人公「杉村」は超一大グループ企業、今多コンツェルン会長の娘を妻にもつ、正に逆玉セレブますおさん。(苗字は「杉村」なので戸籍上はますおさんではないのかな…)同グループ内で社内報を出す「あおぞら」編集部に勤務する。編集部内の人事トラブルの件でひょんなことから毒殺事件の被害者遺族と出会い、事件に関わっていく。
この主人公、テーマと対照的にどこまでも「毒」から遠い。裕福で美しい妻をもち、可愛い一人娘もいて、しかしその状況に溺れず分をわきまえられる思慮分別のある「大人」。ひと言で言えば小説的には「つまらない男」だと思う。…が、そこは宮部さん。周りに個性的な登場人物を配することで退屈はさせない。毒舌女編集長「園田」をはじめ、大きな成長を遂げる事件遺族の娘「古屋美智香」、若手気鋭のジャーナリスト「秋山省吾」、その彼の従姉妹で世話をやきつつ、叱咤する「五味淵まゆみ」、そして今多会長など等。
「毒」にしても直接的な毒殺事件におけるものに限らず、シックハウス、土壌汚染、そして原田いずみのような人間本来がもつ「毒」と様々にちりばめられている。
中でも今回の中核である「原田いずみ」の人物像はリアルに感じた。こういう人間はたくさんいる。そして近いものを自分自身も持っているはずだ。特に昨今「格差社会」と連呼される世間においては、「どうして自分ばかり…」と人知れず心のうちに毒を溜め込んでいる人間が増えているのではないか。そしてその毒が自らの全身に回り、最後にはまるで「もののけ姫」の「祟り神」のようになって毒を撒き散らしながら暴走する…。そんなことを想像してしまった。
今多会長が殺人を「権力」と表したことは腑に落ちる。どうなれば「飢えた」原田いずみの心は満たされるのか…、それとも底は無いのか。北見氏の「どっかの誰かさんが自己実現なんてやっかいな言葉を考え出したばっかりにね」という言葉には心から同意する。ゴンちゃんは「目覚めた」と表現したけど、違うと思う。「呪い」だとすら私は思う。どんどん新しい言葉が生まれ消えていく今になってもしぶとく残り続けるこの「自己実現」という言葉…。早く消え去ってしまえばいいのに。呪いのかけられた私たちはこの言葉に翻弄され「何か」になろうと奔走する。しかし大勢の人間が辿りつく先は、本人が望んでいたものとは違うものだ。そこで「どうして…」とプックリと「毒」が湧き上がってくるのだろう。
実際、事件のあった新しい家を簡単にポイしてしまえる杉村夫妻に共感を寄せることは難しかった。杉村夫妻をみることでまるで自らの内の「毒」を自覚させられる作りになっているかのようだ。
読むのもそれほど時間がかからず、事件自体もそう大掛かりなものではないのに、読み終わった後にいろいろと考えてしまう本だった。宮部さんから宿題を残されような…。それが何かははっきりとは分からないけれど。まさに「名もなき毒」。
Δ ほん | 14:00 | comments(0) | trackbacks(8) | tien
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ぱんどら日記 | at: 2006/10/30 9:50 AM
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ぱんどら日記 | at: 2006/10/30 9:51 AM
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